もうひとつの「神像筒形土器」
富士見町の藤内(とうない)遺跡から出土した土器に、「神像筒形土器」(しんぞうつつがたどき)と呼ばれる土器があります。重要文化財にも指定されていて、星野之宣さんの宗像教授シリーズにも登場したことのある土器です。
藤内遺跡の「神像筒形土器」は高さが60センチメートル近くもある大きい土器です。見ると、そんな大きさもあり、立派で感心すること間違いない土器です。
藤内遺跡の「神像筒形土器」(実測図【富士見町教育委員会2011より】、青い線は約30センチメートル)と復元製作品(当館の土器サークルの作品)
実は、この「神像筒形土器」にそっくりな土器が、茅野市内の長峯(ながみね)遺跡からも出土しています。その土器を見てみたいと思います。
長峯遺跡の「神像筒形土器」
これがその土器です。
長峯遺跡の「神像筒形土器」(長野県埋蔵文化財センター編2005より)
高さが25センチメートル程度なので、藤内遺跡のものに比べるとずいぶんと小ぶりで、両方を見た立場からすると、かわいらしい印象があります。また、藤内遺跡の土器よりも立体的な造形が少なく、土器本体の作りがシンプルです。
この小さくて作りがシンプルな土器のどこが「神像筒形土器」なのか。藤内遺跡の「神像筒形土器」と似ているところを確認してみます。
- 空洞の突起状の装飾(茶色の丸のところ)
土器の縁に、空洞の突起状の装飾が共通した特徴のひとつです。 - 突起状の装飾の下の文様
突起状の装飾の下、逆三角形のような図形があります(青い点線と白い点線で示しているところ)。そしてその逆三角形の角付近から左側には「J」、右側には「し」の字のような表現があります(緑色の線で示しているところ)。
ただし、突起状装飾の細かい造形や、突起状装飾と逆三角形のあいだの「こぶ」のようなふくらみの有無など、違うところもあります。また「J」「し」の字のような表現も、長峯遺跡の土器ではシンプルなのに対して、藤内遺跡の土器では表面に文様がたくさん描かれているという違いもあります。
突起状の装飾と合わせて「J」「し」の字のような表現を見ると、少しヒトっぽく感じる方もいらっしゃるのではないでしょうか。特に藤内遺跡の土器の場合は、土偶のなかにも似たような表現がされているものがあり(例えば山梨県上黒駒遺跡出土の土偶)、より強くそう感じるかもしれません。
長峯遺跡の「神像筒形土器」の文様をぐるっと見てみます
展開写真(2周分、長野県埋蔵文化財センター編2005より)
土器表面の文様を見ると、長方形と三角形が組み合わされて隙間なく描かれています。それらの図形の向きを見てみると、垂直だったり斜めだったりしています。斜めの向きは、裏側にある円形の盛り上がった文様のところで向きが変わります。
大小の長方形や三角形を隙間なく描くだけでも結構大変な作業ですが、その向きを円形の盛り上がり等に合わせて変えながら隙間なく描くというのは、さらに時間と労力のかかる作業でしょう。並々ならぬこだわりの結晶です。
この土器は、常設展示室Cに展示しています。じっくりとご覧ください。富士見町の井戸尻考古館に藤内遺跡の「神像筒形土器」が展示されていますので、両方を見比べてみるのも一興です。
展示のようす(ケースの真ん中、台に乗っている土器で手前のほう)